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ブランドムービー事例 vol.1 中外製薬 風で吹き込まれるいのち篇

  • 執筆者の写真: Shigehiro Moriya
    Shigehiro Moriya
  • 3月27日
  • 読了時間: 4分

更新日:4月1日



この作品が放送されたのが2014年だから、もう10年以上経つ。


クライアントの中外製薬も久しぶりに打つCMだったので、

「埋没しないよう目立つCMにして欲しい」というオーダーだった。


言い換えると、

他社とはしっかり差別化して尚且つ、

自分たちのブランドアイデンティティを伝えるCMにして欲しい

というオーダーだった。


非常に粋なオーダーだった。


CMディレクターとして

自分のスタイルに興味を持っていただける

クライアントが増え始めた時期で、

信頼されて自由にやらせてもらった記憶がある。

適切な感謝の言葉が見つからくらいありがたかった。


企画として決まっていたことは、

  • オランダ人彫刻家テオヤンセン氏の作品、ストランドビースト」

  • 「ワンカット撮影」

  • 「耳残りのする音楽」

の3つだった。


ブランド要素に置き換えると、

  • 「テオヤンセン氏の作品、ストランドビースト」が『キャラクター』

  • 「ワンカット撮影」が『空間デザイン』

  • 「耳残りのする音楽」が『音楽』

と置き換えられるだろう。


これら3つの要素を、どうやって巧みに掛け合わせるか。


楽しかったが、知恵熱が出るほど難しかった。

なんでもそうだが、簡単には答えには辿り着かなかった。


「ストランドビースト」は、

見た人が「これ何?」と純粋に思う、

ワンダーな感覚を与える稀な作品で

キャラクターとして唯一無二である。


氏の想像的ビジョンが、28年にわたる設計期間を経て、

砂浜を歩く生き物になっていることは、もはや創造物と言える。


ブランドのタグライン

「想像で、創造を超える。」を体現している、

と直感的に感じた。


「ワンカット撮影」では、

「ストランドビースト」を血の通った生き物のように撮りたかった。


生物が海から陸へ進出したように、

浜辺の上を歩く創造物を、海から進出した生命体のように、

見てる人々に錯覚して欲しかった。


そのように表現できれば、

タグラインの『創造』を強化できる自信があった。


スタートのドローンが海岸線をなめるところから始まるカメラワークは、

そのようの意図を込めた。


撮影秘話であるが、予定していた歩くラインが前日の台風で削れてしまい、

当日に浜辺を再度整備し直さなくてはならなかった。

その作業が終わっても台風が過ぎた後の風も強く、

ドローンを飛ばせる時間も限られていた。

撮影できたのは10テイクだったが、成功したのは1テイクだけだった。

今振り返れば冷や汗もので、危険で綱渡りな撮影だった。


『音楽』の着想の出発点は、マイルス・テイビスの「Dingo」である。 「Dingo」は、伝説のミュージシャンに憧れ、夢を追いつづける青年の姿を描いたハートウォーミングなジャズ映画で、マイルス・テイビスが伝説のミュージシャンとして出演してる。



あくまで自分の中でだが、

ストランドビーストとマイルス・テイビスが

同じ創造物として自分の中でリンクし、

テーマ曲はマイルスのアバンギャルドなスタイルがピッタリくると考えた。


この着想から転々として今の曲に落ち着いた。


マイルスがストランドビーストを見た時、どのような音楽が浮かぶだろうか?


仕上がりとして、不思議なものになったが、10年以上経った今でも、

「観ましたよ」と言っていただけるのはありがたい限りである。


当初はBS枠でしか流さないと言われていたのだが、

テレビ朝日の報道ステーションでも流されたり、

結果的に、多くの人の目に触れることとなった。


放映回数が少いと思っていたので、

クリエイターとして、このCMに一つの強いメッセージを吹き込んだ。


もし、自分は生きる価値などないから明日自死しようと思っていた人が、

このCMを見た時、CMが流れる30秒の間でも

ネガティブなことを考えることを止めれば、

少しは気分が変わるのではないか、

というメッセージを込めさせてもらった。


30秒で人の考えをガラッと変えることはできないけれど、

気分は少しは変えることができると自負している。


「想像で、創造を超える。」というタグラインは壮大だが、

テオヤンセンのストランドビーストも設計に28年かかっている。

何事も一歩からである。


テオヤンセンのストランドビーストと

敬愛して止まないマイルスの2人の力を借りて、

このCMは作ることができた。


作った当時は、ブランドムービーと思って作っていなかったが、

この音楽を聴くと中外製薬を想起させるものになっているので、

立派なブランドムービーになっている。


「耳残りのする音楽」や「目出つCM」など、

今よりも昔の方が、皆ブランドにこだわった作り方をしていたように思える。

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